chidax2004-08-22

すいかの匂い

本棚に埋もれていた化石のような小説を読み返してみる。
夏にこんなにもセンチメンタルになるのはなにも難しい事ではなくて、
大体夜更けに虫の声なんかに耳をすましてしまっていたりするとすぐに落ちる。


以前どっぷりとはまっていた江國香織の文体は湿っぽい。
一見するとひらがなの目立つとても軽い印象は、
そのせいで文章の妙な重量感に代わる。

11人の少女のひと夏の出来事を並列に書き記してある。
次々に現れていく少女の記憶をあくまで軽率に扱う事でこの小説は成り立っているように思う。

一つ一つが作品として価値のあるまとまりであっても、
それを何のアピアランスもなしに並行して羅列すると、作品の個としての存在が薄れて、
今度はぼんやりした自分の記憶があるまとまりを持って迫ってくる。



内向きの方向性を持つ作品が、パッケージを変えることで今度は読者に向かって外向きの影響を与える。

だから安心してこの人の小説は読めるのかもしれないなぁとか思ったり。